⑫マザーズデイ・フライト!

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 姉夫妻はあと一年は札幌市内勤務とのこと。次の異動では、また中央に近い駐屯地に配属になるかもしれないと予測している。  でも、それまでは。この賑やかな小柳・神楽・東一家で暮らしていけそうだった。  その間に、たくさんの思い出を残しておきたいねと姉とも話し合っている。  あの日のフライトは、母のためのフライトだった。  姉は母親になって初めてのフライトだった。  芹菜義母への感謝のためのフライトだった。  そして芹菜さんはほんとうに自分の足で歩き始めた日。  柚希にとっては、母になろうと決めた日。  マザーズデイ・フライト。  そう名付けている。  あの日。チヌークが着陸して、コックピットから降りてきた姉がヘルメットを取り去り、凜々しいいつもの姿で柚希を優しく見つめてくれていた。 「柚希のおかげで、お母さんに会えたよ」  なんのことだろうかと、姉を出迎えた柚希は首を傾げる。 「出産したばかりでへとへとだった時。慣れない新生児の世話で疲れ切っていた時。ふらふらしながらキッチンに行ったら……。お母さんが居たんだよね。お母さんが、うどんを作ってくれていたんだ。私が好きな、おあげを甘辛く煮付けたやつを乗せてくれるキツネうどん」 「……やだ、お姉ちゃん。それって疲れて幻覚でってこと?」  姉がそっと眼差しを伏せ、首を振る。  艶やかな黒髪、綺麗な面差しの姉が柚希を見つめたまま、少し目を潤ませて告げたこと。 「柚希の後ろ姿が、お母さんにそっくりになっていたってこと」  そう聞いて、柚希はハッとする。  確かに、自分は亡くなった母親に似ていると言われてきたからだ。
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