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I
僕がどのような存在なのかを自分で説明するのは難しい。分かっているのは、居無秀という名前を持っていて、ついさっきまでベンチの上で眠りについていたという事だ。雲がいい塩梅に太陽を隠しているが、それでも暑さを感じる。ここまでどうやって来たのかは覚えていないし、外で寝る趣味なんて持ってはいない。しかし、この状況に何故だか違和感を抱かなかった。
とりあえず立ち上がって体を伸ばした。木製とはいえ、座るために置いてあるものに寝そべっていたのだから、体が氷のように固まっていた。僕は少しづつ太陽の光で氷を液体に戻して、辺りを見回した。ツツジの花、砂利道、木々。どうやらここは公園のようだ。
遠くには大きな橋や、工場、どこかへと進んでいる船、それと逆の方向へ向かう飛行船が見えた。
「なるほど。海の見える工業地帯の公園ってわけか」
目で見た情報をそのまま言葉にして、僕は出口を目指した。公園といっても、遊具などは一切置かれておらず、かつ狭いのですぐに出れた。しかし、目の前に出て来たのは一本の線路だった。
「裏橋海駅か。聞いたことないな」
おそらくここは日本だろう。しかし、どこの県の何市なのか、見当がつかなかった。内陸県では無いだろうが、だからと言って有力な候補を絞り出す事はできなかった。そして、最大の問題点はこの駅に時刻表がないという事だった。
次の駅の名前は何なのか、そして来る電車は何線なのか。終点まで行ったとして、そこに僕の居場所はあるのか。そもそも、僕はどこから来て、どこへ向かっていたのか。考えれば考えるほど分からない事が増えていき、一層混乱した。ここから出なければならない、しかしそこから先はどうすれば良いのか。この公園に居続ければ、いずれ干からびて死んでしまうと思った。しかし、その不安は近くにあった看板が解消してくれた。
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