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ふと置き時計を見たら、朝の8時になっていた。僕は水を1杯飲んで幽霊保護会社に向かう事に決めた。外へ出て、湯冷駅に入り時刻表を見る。どうやら1時間に1本しか運行していないようだ。
「運が良かったな」
奇跡的に止まっていた列車に乗り、裏橋海駅へ列車のと共に体を揺らした。ホームに降り立った瞬間、国道さんが立っている事に気が付いた。
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
「昨日はよく眠れたかい?」
「はい」
「良かった、じゃあさっそく中に入ってくれ。色々と説明しなければならないからね」
国道さんは、昨日面接をした場所へと僕を連れて行った。今回は止まれの標識ではなくて、上向きの矢印の標識になっていた。そのまま国道さんの背中を追っていくと、タンクの目の前まで来た。
「私たちの仕事はこれを守る事さ」
国道さんは左手で大切そうにそれに触れた。目の前には多きなタンクがひとつだけ、銀色のコーティングがされていて、古そうな見た目をしている。そのタンクを囲んでいる場所も、全てが使い古されている印象を受けた。
「中に何が入っているか分かるかい?」
そう訊かれて僕は悩んだ。しかし、何も言わずに微妙な雰囲気を作り出してしまうのが嫌で、とりあえず頭に浮かんだ言葉を出した。
「油ですか?機械を動かす用の。ここら辺は工業地帯っぽいですし」
「良い答えだね。でも違うんだ」
「なら水ですか?火事が起きた時に迅速に対応できるように、みたいな」
「それも違うね」
「じゃあ何なんだろう…」
僕が考えていると、国道さんは難しすぎたねと笑った。そして梯子を取り出して、ちらっと見てごらんと僕に言った。恐る恐る蓋をずらしてみると、液体らしき何かが入っていた。それはちょくちょく色を変えて、きらきらと輝いていた。
「国道さん、これは?」
その液体を見続けながら、僕は彼に質問した。彼は優しい顔つきで、こう言った。
「それは、生きている人たちの『夢』さ」
「『夢』ですか?」
僕は視線を国道さんの方に移した。
「ああ、『夢』だよ」
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