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1.嵐のチキンクリームパイ
この、私達魔女の間で昔から行われている伝統的な行事や習慣をまとめた本(歳時記のようなものだ)によると、お祝い料理のチキンクリームパイを焼く時には、嵐を呼ばなくてはいけない。
「マリーレ。雷を伴う激しい嵐が必要って書いてあるけど、大丈夫?」
相棒のロニーが心配そうに言った。ロニーは灰色の毛に金色の目をした猫だ。
「大丈夫…。多分」
嵐を呼ぶ魔法も、チキンクリームパイ作りも、私は普段ならきちんとできる。
しかし、困ったことに、私は本番に弱いタイプなのだ。
10日後は、大事な祝祭日である。今から二千年以上も前に実在した、偉大な魔女ジーナ・グリス様の誕生日だ。
私は新米の魔女で、この誕生祭のパーティーに、今年初めて出席することになった。
パーティーで食べる料理は、つつましくも持ち寄り制である。
私の担当は、伝統のチキンクリームパイ3個だ。
初出席の立場でもあるし、持っていく料理を失敗するなんてことは絶対に避けたい。
こういうプレッシャーが、緊張の原因なのだが…。
「本番まで10日もあるから、一度練習して作ってみたら?」
ロニーはこう言うが、練習なんて無意味だ。
練習では、本番の緊張感は再現できない。
「ま、何とかなるよ」
私は強気を装って言った。本当は自分でも不安だったが。
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