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目の前で立ち止まった僕に気がついたのか、女の子が涙目のまま見上げてきた。スケッチブックを一枚破ると、描いた絵を差し出す。
正直な話、下手くそな絵だったと思う。
「だいじょうぶ?」
目の前に現れた僕に驚いたのか泣き止んでいた。その小さな手で双眸の涙を拭い、僕の方に手を差し出してくる。
僕は描いた絵をしっかりと握らせた。細い指だ。華奢で小さな女の子もそれを大事な物のように握り続けてくれる。
「……ありがとう」
そう言って女の子が笑顔を浮かべた。その可愛らしい顔を今になって思い出す。
「あの子は彼女だったのか……」
ずっと昔、僕らは出会っていた。僕は二度も彼女を描いていたのだ。
大きなため息をついてベンチに座ったまま空を見上げる。つい声に出してしまった。
「……どうして気が付かなかったのかな」
強い風が吹き、僕は双眸を瞑ってしまう。
再び目を開いた時、その違和感に動けなくなってしまった。
「お久しぶりです」
そう言った彼女が、いつの間にか僕の隣に腰掛けていた。口角を上げて微笑んでいる。隣に置いていたはずの『迷い込める絵本』が彼女の膝の上にあった。
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