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「え? あの、どうして?」
そう訊いた僕は間抜けな顔をしているに違いない。
「とても頑張られたのですね」
僕の問い掛けに応えることなく、膝の上の絵本に視線を落として、その表紙を細い指先で撫でていた。
「読んでもよろしいですか?」
僕は首をゆっくり縦に振っていた。彼女が絵本を読み始める。
彼女の表情に変化が表れないことに我慢が出来なくなり、どうでしょうか? と訊いてしまいそうになるのを呼吸で整えて誤魔化す。
ボクがユーレイ子どもと冒険する物語だ。山に、海に、空にも。
そして、最後。
ユーレイ子どもの姿が消えてしまう。それは僕と彼女の現実を倣うかのようだった。
僕は自分の手元を見ていた。いつの間にか両手を組み合わせるようにして、力を込めている。両方の太腿にそれぞれの腕を預けた。
すこし前傾姿勢になった僕の姿は、何かに祈っているように見えるかもしれない。
絵本の感想を聞いてみたい。けれど、どこか怖いような、入り混じった感情だ。
再び僕は隣の席に視線を向ける。そこには変わらず絵本を読み続けている彼女が居た。
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