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「お部屋は、ご両親が思い出のために借りているのではないでしょうか?」
最後に両親に会ったのがいつなのか、思い出せなかった。
「わたしの事が見えるのも、幽霊同士だからです。相性があるとお伝えしたかと思います。別府駅前でお会いしたご友人やレストランのホールスタッフのように、見えない方も居るようです……。まだ信じて頂けませんか?」
彼女が指を一本立てて地面の方を指す。
そこには太陽の下であるべきものがない。
僕には影がなかった。
「……僕は、これからどうなるんですか?」
双眸から溢れ出そうとする何かを我慢するように、僕は青空を見上げていた。溢れるな、と自分自身に言い聞かせる。
溢れるな。
「どうなるのか……。わたし自身も分からないのです。この世に未練がなくなった時に成仏するのか、それとも永遠にこのままか。ただ、段階的なものがある気がしています。わたしの事が見えなくなったように」
「段階ですか?」
と、瞼を擦って彼女を見つめる。
「天国への階段を登っていくようなものかと。死を受け入れる為の準備期間なのかもしれませんね。わたしに言える事は続けるしかないという事です」
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