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僕と彼女(1)
その身を犠牲にするようにして絵を描く鉛筆の柔らかさが、僕は昔から好きだった。
その心地よい感触を思い出しながら、別府駅に向かって黙々と歩いていく。
大分県別府市にあるこの駅が日豊線の駅として開業したのは、一九一一年七月のことらしい。すでに百周年を超えているそうだが、幾度か改装工事されている為かそこまで古びては見えなかった。
「今日は何事も起きないと良いけれど……」
僕は祈るように呟いてしまう。大きく息を吸い込むと思い切って踏み出した。
別府駅の西口から構内に入る。地方の都市にある駅の疎な人波だ。
僕の不安をよそに三歩目でそれが起きた。
小さな子供が覚束ない足取りで近づいてきたかと思うと、目の前で転びそうになる。
「危ない!」
僕は素早く身を屈める。その小さな躰を両手で支えた。
「だいじょうぶ?」
そう声を掛けると、子供は何事もなかったかのように僕の手を振り払って脇を擦り抜けて行った。
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