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「あの……。そんなに突かれますと恥ずかしいのですが」
僕は慌てて手を引いた。
「す、すみません」
彼女が靨を作る。
「お気になさらず。相性が良いでしょう? お互いに幽霊の場合でさえ見えたり見えなかったりするようです。この世への未練の強さに違いがあるからかもしれませんけれど……。ですから、わたしたちはとても相性が良いのだと思いますよ」
そして、小さな声で言葉を続けた。
「そろそろ行きましょうか? 良い時間になったことですし」
「何の時間なんですか?」
僕は訊いてみる。すると彼女が徐に立ち上がった。
「そのコーヒー、一口もらっても良いです? 実はここのコーヒーが大好きなのです。香りで分かりますよね」
「コーヒーとか飲めるんですね」
不思議に思いながらコーヒーのカップを彼女の方に差し出す。
「飲みかけで良かったんですか?」
「はい。ほんの少し頂ければ満足なのです」
彼女がそう応えてコーヒーを一口含む。
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