悪い男と悪い女(1)

3/8
前へ
/196ページ
次へ
「頑張って小銭を稼いでいる。ご苦労様だ」  悪い男は見下すように言う。 「お金さえ渡せばアタシが幸せだと思っているのよ。連絡だけはまめにしてくれるんだけれどね。でも、こうやって会えるんだから、亭主は元気で留守が良いのよ」  悪い男がこの悪い女と初めて会ったのはパチンコ店だった。  その日は運が良かった。  座っている椅子の脇には、銀色のパチンコ玉が詰め込まれたドル箱が高く積まれていた。 「馬鹿ばっかりだ」  言葉に出ていた。視界の端にドル箱が入るたびに自然と笑みが生まれる。 「笑える」  溜まっていく銀色の金属の玉が金塊のように見えていた。それは、錬金術で無限に出てくるものだ、と勘違いしそうだ。 「座ったまま片手を動かすだけで、真面目に働く馬鹿を超えられる」  働くなんて馬鹿げている。 「本当に馬鹿ばっかりだよな。なあ?」  誰に訊くというわけでもなく声を発する。悪い男は愉快でたまらなかった。  そうやって悪い男が悦に入っていた時だ。横に座っている女の胸元にみとれた。
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加