悪い男と悪い女(1)

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 差し掛かろうとする交差点を三毛猫の親子が律儀に渡っていた。それを見ても悪い男はアクセルを緩めない。 「猫のために速度を落とす気なんて毛頭もないね。ガソリンの無駄だ。その方がエコだろう? 猫でエコだ。それに親子を轢き殺すのは得意なんだよ」  車の速度が増す。クラクションを何度も、何度も鳴らした。交差点に車が突っ込む寸前で猫の親子が飛び跳ねるように走り出す。  そのまま街路樹の間に走って逃げていった。 「ねえ。本当に轢くつもりだったでしょ?」  悪い女がねっとりとした口調でいう。 「さすがに可哀想よ」 「なにそれ? 可愛らしく見せる為の計算?」  悪い男はつい本音を言ってしまう。  動物が大好きなアタシって可愛いでしょ、という表情を悪い女が作りだしていたからだ。 「轢いておけば良かった」  悪い男は声を荒げていた。 「実際、自分以外はどうでも良いだろう?」  と、続ける。 「そんなことを言っているから未だに恨まれているんじゃない?」  悪い男の興奮を冷ますように悪い女が澄ました顔を作っていた。 「……チッ」  途端に苦虫を噛み潰したような顔になる。
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