悪い男と悪い女(1)

7/8
前へ
/196ページ
次へ
「アイツ、死んでくれないかなあ」 「脅迫文、まだ届いているんだ?」 「ああ」  悪い男は苛立ちを隠せなくなりハンドルを乱暴に切ってしまう。 「俺は悪くない。あんな父親の家族は轢いておいて良かった、って心から思う」 「あなたって、思っている事をすべて言葉にしてしまうわよね」 「運が味方しているからな。……二人も轢き殺した。それでも自由だ。謝罪などあり得ない。『ザ・マ・ア・ミ・ロ』と、言ってやりたいくらいだ。目の前に現れてくれればな……」 「はいはい」  悪い女が窓の外を見ながら言う。 「どうせ碌なことを考えていないんでしょ?」  悪い男は眉間に皺を残したまま応えていた。 「そんなの決まっているじゃないか」  悪い女が悪い男の顔をじっと見つめる。 「どう決まっているのよ?」 「後悔と嗚咽を存分に与えてやるんだ」 「反省したり出来ない星の下に生まれたのね。そんな事を言っていると、死神が来るわよ」  と、悪い女が諌める。 「死神ねえ。そういえば、妙な物が見える事があるんだよな。黒い影みたいな……。形はハッキリしないが、俺の方をじっと見ている気がする」
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加