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「アイツ、死んでくれないかなあ」
「脅迫文、まだ届いているんだ?」
「ああ」
悪い男は苛立ちを隠せなくなりハンドルを乱暴に切ってしまう。
「俺は悪くない。あんな父親の家族は轢いておいて良かった、って心から思う」
「あなたって、思っている事をすべて言葉にしてしまうわよね」
「運が味方しているからな。……二人も轢き殺した。それでも自由だ。謝罪などあり得ない。『ザ・マ・ア・ミ・ロ』と、言ってやりたいくらいだ。目の前に現れてくれればな……」
「はいはい」
悪い女が窓の外を見ながら言う。
「どうせ碌なことを考えていないんでしょ?」
悪い男は眉間に皺を残したまま応えていた。
「そんなの決まっているじゃないか」
悪い女が悪い男の顔をじっと見つめる。
「どう決まっているのよ?」
「後悔と嗚咽を存分に与えてやるんだ」
「反省したり出来ない星の下に生まれたのね。そんな事を言っていると、死神が来るわよ」
と、悪い女が諌める。
「死神ねえ。そういえば、妙な物が見える事があるんだよな。黒い影みたいな……。形はハッキリしないが、俺の方をじっと見ている気がする」
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