276人が本棚に入れています
本棚に追加
僕と彼女(3)
僕と彼女は別府駅に向かって並んで歩いていた。
わずかな時間でも歩いているだけで額から汗が流れてくる。それを手の甲で拭った。
「なかなか暑いですね」
視線を上げてみた。澄んだ青空の中で孤独を楽しむように、太陽が己の地位を主張している。彼女に気づかれないように、僕は視線を下げた。
何度確認しても彼女には影がない。
「もう少しゆっくりコーヒーを飲んでおけば良かったです」
僕は少し後悔する素振りをしながら、会話してみる。
「そんなに暑いのですか?」
一方で彼女は平然な表情のまま、小さな顔を傾げていた。
「もしかして、暑さとか感じないんですか?」
「これも幽霊あるあるですよ……。暑さを感じるのですね? 勉強になります」
と、彼女が不思議そうにする。
「普通に暑いですけれど……」
僕らは別府駅の構内を通り抜けて、東口に近づいていく。
油屋熊八の銅像の横では友人が唄いつづけていた。そのお陰か不思議と脚が軽くなる。
最初のコメントを投稿しよう!