276人が本棚に入れています
本棚に追加
友人の孤高な姿は周囲とは別の時間軸で生きているようだ。
きっと、こう言って微笑むことだろう。
『時間なんて人が勝手に作り出したものだ。そんなものに死ぬまで縛られていくのか?』
僕は彼女と並んで友人の目の前に立った。友人がフォークギターをかき鳴らす手の動きを止めて、だらりと垂らす。
フォークギターの音色が余韻を残したが、次第に駅前の雑踏に吸い込まれていった。
「やあ」
ピックを握ったまま友人が片手をゆっくりとあげる。
「絵描屋は休業?」
「そういうわけじゃないんだ。ちょっと急ぎの依頼が入ったから」
僕はそう応えて隣に居る彼女に視線を送る。彼女が僕の方を見て何故かウインクしていた。
僕の見ている方向に視線を向けた友人が、不思議そうな顔をする。
「どうした? そっちに何かあるのか?」
その様子を見て、呟いてしまう。
「本当に僕以外の人には見えていないんだ……」
「何が見えていないって?」
「ううん。なんでもない」
僕はとりあえず誤魔化してみる。
最初のコメントを投稿しよう!