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僕は周囲が気になり顎を引くだけで応える。彼女の声が僕にしか聞こえない事を意識したからだった。
そんな彼女が言葉を続けた。
「あんな風に着飾って、美味しい物を食べて、綺麗な女性と楽しそうに会話して。それでも現状に満足できないのか、王様にでもなったかのように勘違いして。感謝さえできない」
その言葉に僕はもう一度頷いてしまう。
「父の手帳によると、あの女性と男は不倫の関係にあるのではないか、とのことでした。それも脅迫の材料の一つになっている」
セーラー服を着た彼女から大人びた言葉が出たことに、僕はすこしだけ驚く。
「男はやりたい放題ですか……」
「あの女性の誕生日に、このお店でディナーをするのだそうですよ。父はその日に復讐を実行する計画を立てています。この店から男が出てきた所に刃物を持って父は現れる。そして、父は男を刺そうとしています」
僕は気になったことを小声で訊いた。
「どうして、あの女性の誕生日に?」
彼女がどこか寂しそうに微笑んでいる。
「不思議ですよね。なんの因果なのか、あの女性の誕生日が母とわたしの事故に遭った日なのだそうです。つまりは命日ですね」
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