僕と彼女(3)

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「お父さんは二人が亡くなった日に命を賭けるつもりなんですね?」  僕は小声で訊いた。  こくり、と頷いた彼女が急に動きを止める。大きく双眸を見開いていた。僕はその様子が気になって訊いてみる。 「どうかしましたか?」 「男がこちらを見ています」 「え?」  その言葉に僕は思わず悪い男の方を見てしまう。フォークを持った男が眉間に皺を寄せて彼女の方を睨んでいた。  僕は慌ててカウンターの方に向き直った。彼女に小声で言う。 「もしかして見えているんでしょうか?」 「……分かりません。相性は良くないと思うのですが。あ、わたしの方だけを見ているわけではなさそうですね」  僕は窓の外でも眺めるように顔を動かし、再び悪い男の方に視線だけを向ける。男が鋭い視線を左右に動かしていた。 「なんでしょう? 何かを確認しているような。攻撃的なことには変わりないですが」 「まあ、考えても仕方ないです。男も確認できた事ですし、気持ちを切り替えて食事にしましょう」  そう言って彼女がカウンターの方を向いて座り直す。熱心にメニューを見つめ始めた。
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