僕と彼女(3)

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 木製の扉を開いて、ビルの谷間に差し込む太陽を浴びた瞬間だ。 「まだ暑いですね」  僕は無意識のうちに彼女の方を向いていた。  彼女は無言だった。離れた場所を見詰めている事に僕は気がつく。 「どうかしました?」 「……あそこに父が居ます」  彼女がビルの谷間を指差していた。続けて寂しそうにする。 「すこし痩せてしまいましたね」  僕は彼女が指差す方向に視線を移した。ビルの陰に隠れるように立っている男性がいる。  三十代半ばに見える男の人だ。細身で黒いスーツに黒いネクタイ。見た目は若いけれど、彼女の年齢を考えるともう少し年上かもしれない。 「男を尾行している?」  僕は彼女に訊く。 「どちらかといえば、圧力をかけている、と言った方が正しい気がします」  彼女が寂しそうに目を伏せる。 「父にはわたしの事が見えません。声を届けることも出来ないのです。……お亡くなりになっても思い通りにはいかないものですね」  そう言って薄ら笑みを浮かべる彼女の事を、とても寂しそうだな、と思わずにはいられなかった。
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