悪い男と悪い女(2)

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「あれ、気づかなかったんだ? 食べることに集中しすぎじゃない」  悪い男の正面に悪い女が座っていた。胸元の大きく開いた白い服装だ。その胸を寄せる必要がないことを悪い男は知っている。 「それよりも、何かあった? そんなに眉間に皺を寄せて、あっち見たり、こっち見たり」 「ん? ああ……」  歯切れ悪く悪い男は応えてしまう。 「なあ。カウンターの方に何か見えないか?」  そう訊かれた悪い女が振り返ってその方向を見た。 「普通にお客さんが座って居るけれど。知り合い?」 「……そうか。見えないのか」  そこで悪い女がスプーンを置いて、口元をナプキンで拭いた。 「もしかして、さっきの話の続き? 黒い影みたいなものが見えるっていう」 「何でもない」  そう応えたものの、悪い男は視線を向けてしまう。……いつもより黒い影の数が多い。 「ねえ。そんな事よりも聞いてよ」  と、悪い女がスプーンを持つ。  悪い女の口から飛び出す言葉はいつも似通っていた。仕事ばかりで留守にする夫の事だ。
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