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「それでさあ……」
悪い女が続ける話が全く頭に入ってこない。その真っ赤に塗られた唇が、顔面に寄生する生き物のように動いていた。
会話の主語が『家に居ない夫』ばかりだと、悪い男は前から気がついていた。
それでも機械的に相槌をいれる。
「それで? 旦那、今日は何しているの?」
……話を聞いてあげる。その素振りだけで女性は満足する生き物。
「今日はね……」
自分は相手にされているという錯覚。
それを起こさせれば自由に扱える。女性という存在をそう理解していた。
ナイフでハンバーグを少しずつ切り分けていく。それは必要以上に細かくなった。
どうして止められない?
「こんなに細かくする必要あるのか?」
と、つい声に出してしまった。まだ続ければ牛肉のミンチに戻ってしまうだろう。
「……苛々する」
悪い男は気がついた事を次々と口にする。
「なにか言った?」
フォークを握る手が指先まで赤い。思っていた以上に力がこもっていたらしい。
悪い男は正面に座る女に視線を向けた。
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