悪い男と悪い女(2)

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「それでさあ……」  悪い女が続ける話が全く頭に入ってこない。その真っ赤に塗られた唇が、顔面に寄生する生き物のように動いていた。  会話の主語が『家に居ない夫』ばかりだと、悪い男は前から気がついていた。  それでも機械的に相槌をいれる。 「それで? 旦那、今日は何しているの?」  ……話を聞いてあげる。その素振りだけで女性は満足する生き物。 「今日はね……」  自分は相手にされているという錯覚。  それを起こさせれば自由に扱える。女性という存在をそう理解していた。  ナイフでハンバーグを少しずつ切り分けていく。それは必要以上に細かくなった。  どうして止められない? 「こんなに細かくする必要あるのか?」  と、つい声に出してしまった。まだ続ければ牛肉のミンチに戻ってしまうだろう。 「……苛々する」  悪い男は気がついた事を次々と口にする。 「なにか言った?」  フォークを握る手が指先まで赤い。思っていた以上に力がこもっていたらしい。  悪い男は正面に座る女に視線を向けた。
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