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「アクセルを踏み込んで速度を上げて。目の前の信号が赤色に変わった。ブレーキを踏むなんて普通は考えないよな?」
悪い女が興味なさげに悪い男を見つめる。
「突っ切ろうとした交差点を人が渡っていた。中年の女と女子高校生だ。気づいた時には、人形みたいに跳ねあがっていた」
そこまで話してから切り刻んだハンバーグをスプーンで掬った。口に運んで噛み締める。肉の旨みがひろがった。
「やっぱり美味いな」
見た目が悪くても味は変わらない。
「人って一瞬で壊れるんだよ。結局は肉の塊だな」
悪い男は汚い音を立てる。クチャクチャ、クチャクチャ。他人の視線なんて知ったことではない。肉汁が唇を湿らせ輝かせていた。
髪を掌で掻き上げる。
「オヤジの秘書が優秀な弁護士を呼んだ。金と権力。それはなんでも叶えられる。現代の魔法だ」
悪い男は更に続ける。
「それでも一年間以上は車の運転ができなかった。たったの二人なのに、一般人が死んだくらいで大袈裟だ。いくらでも代わりの人間はいる」
悪い女が深いため息をついていた。
「なんだか自慢しているみたいね。戦闘機の撃墜マークじゃあるまいし、轢き殺した数は自慢できないわよ」
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