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人を憐れむように目を細くしている。
アイシャドーのせいか深い闇のようだ。
大きな黒目を動かすことなく真っ直ぐ悪い男を見つめている。見つめ返すとその闇に取り込まれそうな気がして言葉を放った。
「……轢いておいてよかった。親子を同時に車で轢く経験なんて、滅多にできない経験だ」
「あなたって……」
悪い女が言葉を区切った。
「若いし外見的にも魅力的だけれど、内面的には改善した方が良いと思うわ。お金を持っていることは大事だけれど!」
悪い男は声をあげて笑う。
「そんな男と不倫をしている女に何を言われようが気にならない」
「へえ、そんな女性がこの世の中にいるの? アタシの知っている人かしら」
悪い女が魅惑的な靨をつくっている。
「偶然にも俺の目の前に居るけれどな」
と、悪い男。
「奇跡ってあるんだね」
更に笑みを増した悪い女が続けた。
「そういえば、さっき言っていた黒い影って、いつぐらいから見えているの?」
「そうだな……」
悪い男は記憶を探るように窓の外に視線を向けた。
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