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「じゃあ、どうして欲しいっていうのよ?」
「普通に考えれば、俺を殺してしまいたい、って渇望しているだろうな。あの父親の想像の中で俺は何度も殺されているだろうね」
悪い女が身を乗り出して話の続きを待つ。
「他に出来ることは限られる。まあ、順当に考えれば法的に裁きたいと思うだろう。例えば、俺が運転する車に轢かれたり、何かしらの手段で俺から怪我を負わされたり?」
「そこまで理解できているなら、あの父親の思惑に乗る必要はないんでしょう?」
これまで悪い女に見せたことがないほど、悪い男は思いっきり表情を崩していた。
「……いや、いや、いや」
細切れのハンバーグをスプーンで集めた。スプーンの上の、ミンチと変わらない状態の肉片を口に運ぶ。最後の一口だ。
「だから誕生日はこの店でディナーなんだよ」
その言葉が終わらないうちに双眸を細めた悪い女が身を乗りだしてきた。
「もしかして何か悪巧みをしているの?」
「その日は俺にとっても記念日だからねえ」
車のハンドルを通して躰に伝わった感触を悪い男は思い出していた。吸い込まれるような重量感に身震いする。
「……柔らかい肉塊を巨大なハンマーで叩くような感覚。ゾクゾクしたんだ」
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