悪い男と悪い女(2)

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「何のことを言っているの?」  悪い女が怪訝な表情になる。 「祝杯をあげようじゃないか。その日は俺が車で人を轢き殺した日。つまりはあの父親の妻と娘の命日だ」  悪い男は愉快でたまらなかった。 「あの父親が何か仕掛けてくるなら、間違いなくその日だよ。それまでは此方から手出しする必要はないんだ」 「アタシの誕生日に、嫌な思い出を作ったりしないでよ」  悪い女が不機嫌そうに言う。  悪い男は言われたことを完全に無視して、訊いていた。 「俺の好きな暴力を知っている?」 「暴力に好き嫌いなんてないでしょうに」 「俺が好きな暴力の名は、……正当防衛っていうんだよ。仕方ない暴力なんだから。結局、誰も俺を裁くことなんて出来ないんだ」  悪い男は歯を見せて笑っていた。
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