僕と彼女(4)

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僕と彼女(4)

 作業机に向かっている僕の姿が窓ガラスに映っていた。視界に入ったその姿に自覚する。  ……大人になった気がしないな。  二階建ての木造アパートで一人暮らしをはじめてから一年以上が経っていた。一人で生活することの困難が今はよくわかる。  当たり前だったことは、誰かが作り出してくれた土台のもとで成り立っていた。その事に気付かされたのだ。 「父さんと母さんは元気だろうか……。最後に会ったのはいつだっけ?」  僕は不思議と思い出す事が出来なかった。  1DKの部屋は画材や作品であふれている。  油絵の具の臭いが部屋に染みついていた。換気をしても取れないので部屋自体の臭いになっているのかもしれない。 「いつの間にか臭いも気にならなくなったな」  慣れてしまったのだろう。  作業机は木製で天板には木目が奇麗に浮きでている。指先で触れた。つい独り言が出てしまう。 「さらさら」  作業机に備えつけた白熱電灯の柔らかい光が、天板を照らしてくれている。
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