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そこには、彼女から預かった薄いオレンジ色のフォトアルバムを置いていた。
「どの思い出からにしよう」
と、何気なく頁を捲っていく。
「大切に扱われていたんだな」
そう想像できるほど、どの写真も撮られた当時の姿を保っているようだった。
持ち主の気持ちを大事にするように両手の指先を使って、ゆっくりと頁を捲っていく。
彼女から依頼されたのは、できる限り多くの絵葉書を父親に送って欲しいということだ。
僕は一枚の写真をじっと観察する。
髪の長い清楚な女性が写っていた。片手で耳にかかった髪に触れている。写された瞬間、髪を耳にかけようとしていたのだろう。彼女の母親だ。
「隣が彼女か。中学生ぐらいかな?」
旅先なのだろう。二人の背後には、一面のネモフィラが広がっていた。
その青い花弁が絨毯のように見える背景を背にして、二人が笑顔を浮かべている。撮影したのは父親なのだろう。
「五年ぐらい前かな……」
その写真を机の上に置いたまま僕は色鉛筆を近くに寄せる。画材をどれにするか迷った挙句、僕は色鉛筆を選んでいた。下書き用の3Bの鉛筆を握る。
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