僕と彼女(4)

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 鉛筆の柔らかさが僕は好きだ。  双眸をとじる。瞼の裏にこれから描く絵葉書の構図を思い浮かべた。  双眸を開くと同時に机の上の葉書と向かい合った。鉛筆が軽快に動きはじめる。  その感触は柔らかく、真っ白い葉書に削り取られていく炭素を感じられる気にさえなる。  まず輪郭線を描いていく。表情に肌の質感を加えた。直線が次第に生命のまるみを帯びていく。  何本も線を重ねる。鉛筆が鋭い音をたてた。光源が左上にあるとして影を加える。 「お邪魔しますよ! あれ? 居ないのかな」  衣服の皺、髪の毛のながれ。食パンの切れ端をつかって陰影をぼかす。風景を少し描き加えて想像通りか確認した。 「こんな感じかな」  僕は視線をあげる。ストレッチするように頭を左右に振る。首の関節が気持ちのよい音を鳴らした。  色鉛筆で色を加えていく。一通り描き終えた所で天板の上に色鉛筆を転がした。六角形のそれはすぐに動きを止める。 「どれどれ」  絵葉書を両手で持ち上げてその薄い感触を確かめる。白熱電球の光が描いた絵を浮かびあがらせてくれた。
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