274人が本棚に入れています
本棚に追加
「表情はもう少し明るい方が良いか」
二人がネモフィラを背景にして満面の笑みを浮かべている。楽しそうに見つめあっていた。彼女に視線をむける妻の目元には柔らかい皺ができている。
彼女がこれ以上はないというくらい安心した笑みを浮かべていた。
勿論、そんな彼女の笑顔は僕の想像でしかないのだけれど。
「もう少し花の青色を薄くした方が、人物が目立つかも」
二人が笑っていた。その正面に立っているのは父親に他ならないだろう。父親も笑顔であって欲しい。
「……これは、これは。お上手です」
「え?」
不意に耳元で囁かれた僕は驚いてしまう。
慌てすぎてしまい飛び退くように椅子から転がり落ちていた。椅子も床に倒れてしまう。
僕は床に座り込んだまま見上げていた。
セーラー服を着た彼女が前屈みになって、僕の横に立っている。
「どうして?」
僕は間抜けなことを訊いてしまう。彼女にとっては扉の存在自体が無意味だろうから。
すると彼女が申し訳なさそうにする。
「ごめんなさい。『お邪魔しますよ!』と言ったのですけれど。聞こえませんでしたか?」
最初のコメントを投稿しよう!