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母親の誘いでしぶしぶ写真に撮られることを了承した彼女が母親の横に並ぶ。そして、父親が時間を切り取るようにシャッターを切った。
帰り際。再び運転する父親の背中を見た彼女が、声を掛けるか迷う。小さな声で囁いていた。
『大人になったら、わたしが運転してあげるから』
叶うことのないその言葉をとても残酷だと思った。それでもその一言を絵葉書に添えてみる。
ここに書かれるべき言葉は、彼女の父親を一時的に慰めるようなものではなく、普通に家族が発するものではないか?
そう思ったからだ。
「書いてみました」
と、ダイニングキッチンの方を向いて声を掛けてみる。
しかし、彼女の返事がない。気になった僕は立ち上がり、ダイニングキッチンに進んだ。
「……うわあ」
そこで僕は茫然としてしまう。その状態を端的にいうと、彼女が黙々と料理をしていた。
彼女の手際は良く、包丁で指を切ることもなければ焦がしてしまうこともない。迷わず、プロの料理人が計算しつくした動きを見せるように淡々とこなした。
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