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それ以上に驚かされるのは料理の見栄えだ。食材の位置や形、色合い。それらは小料理屋で出てきたとしても、見劣りしないだろう。洗練されている。
「綺麗な料理ですね。お店に来たみたいです」
彼女の姿が見える僕には普通に料理をしているように見えている。
「他の人にはどう見えるんですか?」
と、僕。彼女が触れている間はこの世から消えてしまっている、と言っていたからだ。
「そうですね。想像するしかないのですが、包丁や食材が見えたり、見えなかったりしているのではないかと。あとは料理が急に出てくるかも」
「それは驚きますね。それにしても、料理ができるんですね?」
僕はその背中に訊いていた。
彼女が視線だけ向けて微笑む。
「それは、お亡くなりハラスメントですよ。よく母の手伝いをしていましたから、料理は得意な方です」
そう応えながら料理を作る手を止めようとしなかった。
ダイニングキッチンは六畳ほどの部屋だ。セーラー服の上からエプロンを着けた彼女が椅子に腰掛ける。
「さあ、完成です。ご飯が冷めてしまう前に食べましょう」
彼女の前にも料理が用意されていた。
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