僕と彼女(4)

10/17
前へ
/196ページ
次へ
「やっぱり、ご飯を食べるつもりでしたね?」  僕はそう言って微笑みながら向かいの椅子に腰掛ける。 「どうして急に料理を?」  すると彼女がお淑やかに言った。 「せめてものお礼です。わたしに出来る事はこれぐらいですし」  ダイニングキッチンに置いている正方形のテーブルの上に広がっている料理が、湯気をあげていて美味しそうだ。  餡のかかった揚げ豆腐。鮮やかなサラダと中華スープ。それに大分県の名物である鶏肉の天ぷらであるとり天。そして、鶏めしだ。  大分県民の好物である鶏肉が、ふんだんに使われている。僕らは手をあわせた。 「いただきます」  食事をする時の子供の頃からの習慣だ。どういうわけか、僕はいつも声に出しながら双眸を閉じてしまう。 「……おいしい!」  彼女の料理はとても美味しかった。味だけでなくその見栄えも美しい。  彼女も僕と同じように咀嚼している。箸の使い方がとても綺麗だ。  そして、今更ながらに考えてしまう。 「食べたものは何処に消えているんですか?」
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加