みんなのための正義のキュレーションサイト

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「なぁ兄貴、投稿して今更なんだけど、いくら何でもこのタイトルは……」 「いいっていいってほっとけ! 後で本文にフォローしてんだし、元ネタのサイトのリンク引っ張りだしてんだからよ!」 「だけど、本文やリンクを広告の下になるよう設定して大丈夫なの? それに、無断転載は……」 「いいっつぅの! 情報に誤りが無いようにわざわざ記載したのに、それを読みもしない奴が悪い! それに俺達がやってるのは『転載』ではなく『引用』もしくはその文章を元に新たに書き起こしたものだし、あのサイトにゃ『転載禁止』とは一言も書かれていない。つまり、『転載してもいい』って読解できるって事だ。」 「いやでも、『彼らは追放すべき!』ってのは……」 「これぐらい過激じゃねぇとクリックしてくれねぇんだからいいの! こんな手は大手メディアだってやってんだから、俺達個人でやったって問題ねぇだろ?」 「だけどさぁ……」 「なんだよ親愛なる弟クン、不満あるのか?」 「この人が討論するテレビ中継見たけど、『追放』だなんて一言も……」 「何言ってんだよ! リンク先の●●●新聞がそう書いているんだから、そのまま引用してるだけだっての! 違ってたらそんな誤解するような事を書いた奴がわりぃんだから、そいつになするつけりゃいいんだよ! そもそもなぁ、あの言い方じゃ『▲▲党を追放しろ』って言ってるのと同じなんだよ。▲▲党の議員達が遅れてきて、その後あの議員さんが『きちんと時間を守れない人は、ここにいない方が良い』だなんて、ありゃ完全に▲▲党への当てこすりだろ。つまりそう言いたかったって事だっての。もしあの議員さんにその気が無かったとしても、誤解を招く言い方をしたその議員さんが悪い。だから、俺達には何の罪もない」 「いや、だったらリンク先記事の書き方が間違ってるって指摘したり、その議員さんが言いたかった事を正しく伝えるような記事書いた方が……」 「あのなぁ、世間知らずな弟さんよぉ。この議員さんはな、ネット上じゃ嫌われてんだよ。だからもしその議員さんの味方になるような事書いたら、たとえ正論だろうと、俺達が運営しているサイトを炎上してくるんだよ。そうなったら誰もアクセスしなくなって、広告代ゲットできなくなってメシ食っていけなくなるんだよ。それよりも、あの議員さんを叩いた方がネットは味方になってくれる。そうなると、俺達が載せたこの情報が拡散されて、儲かりやすいんだよ。つまり、こういった記事を読みたい奴らに媚びろって事だよ、な?」 「でも、嘘つくのは……」 「だからなぁ、嘘ついてないっての。この記事読む人が読みたくなるように調整してるだけ。それで誤読したらソイツの責任。それに俺達は大手メディアみたいにコンプライアンスだのなんだのメンドクセー事考えなくていいんだって。だいたいそもそももともと人間ってのは、信じたい事しか信じない生き物なんだぞぉ弟よ。嘘が嫌いだとか言いながら、それが信じたい事ならたとえ嘘や誤報でも信じるのが人間という愚かな生き物なんだぞ。そして今や時間は刻一刻と消費速度が速くなってるから、誰もがすぐ食いつくような事を書かなあかんのだぞ。つまりそう言う事だ、弟よ。わかったか?」 「えぇ、言ってる意味が……」 「いいから早く書けやこの愚弟! てめぇの指全部引きちぎっぞ! それとも生き埋めにされてぇのか? え?」 「ひ、はいぃ!」 「そうだぞ偉いな我が弟よ。……これで俺達の評価が上がるはずだ。あっ、あとSNSとかからこの●●●新聞の記事に対するコメントも五つ以上は丸々引用しろよ。もちろん、あの議員さんに対して辛辣なヤツ、出来れば『お前が言うな』『見事なブーメラン』とかのコメント加えてるやつのをな。あの議員さん、学生時代は遅刻常習者だって聞いたから、そんな事コメントする奴いるはずだぞ。あと、念には念を入れて『転載禁止』とか書かれていないか確認しろよ。最近それを確認しなかったためにトラブって評価順位がガタ落ちして消えた奴もいるからな」 「……わったよ」 「てめぇ何だよその態度。あ~あ、さすがの神様のように温厚な俺も、可愛いかわいい弟に鉄拳食らわせないと虫の居所収まらねぇなぁ~、どうしようかなぁ~?」 「わかりました! だからその拳振り下ろしてください!」 「そうそう、それでよろしい」 「兄貴さ、ホントにこのサイト、大丈夫なの?」 「何だ弟よ。いいかげんその排泄物みたいな心配性治しなさんな」 「だって、兄貴がたまたまアクセスして見つけたっていう、『みんなのための正義のキュレーションサイト』って、何かおかしくない?」 「それがどうしたってんだ。このサイトは登録すれば誰でもまとめ記事を作って載せれるし、しかも広告収入だけでなく、評価順位が上がったらその分だけ現金ボーナスが得られるっていうんだぞ。こんないい事ないだろう。おかげでバイト三昧から卒業できたし、社畜にならずに済んだんだぞ。いい事だらけじゃないか」 「その『評価順位』なんだけどさ、兄貴、その順位についての説明、最後まで読んだの?」 「読んだぞ。それがどうした」 「いやだって、『評価がマイナスになったら、記事作成者に相応のペナルティを与えます』って書いてあって、その、これなんかヤバいやつなんじゃ……」 「そんなん、どうせ大した事ないっての」 「それにさ、『評価順位』の基準って、アクセス数だけじゃなくてさ、『GOOD』とか『BAD』などのボタンがどれだけ押されたかとか、コメントなどから自動的に判断されるっていうじゃん。ほら、あの意見を改ざんした記事……」 「ありゃ改ざんじゃない、分かりやすくまとめただけだっての。ちゃんと学習しろ弟よ」 「いやそのさ、まとめた記事だけど、『BAD』が結構つきまくってたし、コメントも『嘘つき』『情報改ざんしすぎ』って非難しまくって、こないだ評価ちょっと下がったじゃんか」 「なに、またいつものように別のスマホから『GOOD』めちゃくちゃ押しまくったり肯定のコメント書いたりして帳消しにすりゃいいだけだろ」 「それ、いつまでも続くものじゃない気がするけど……」 「さぁさぁ、考えてっからネガティブになるんだ。次もアクセス増加する記事作るぞ。今度はこの大手テレビ局偏向報道のデモ参加者だ。公式発表じゃ78人って書いてあるけど中途半端だから約100人って書けよ。キリ良くて多い数値の方が、読んでる側からしたら気持ちいいからな」  ※  ※  ※
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