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訃 報
濃紺のリクルートスーツに身を包む男女を左右に白いスーツの男、白崎創世は座っていた。創世は髪もスーツと同様に白く、気怠そうな顔で後頭部を掻きながら大きな欠伸をしている。
――――面接中はお静かに。って、分かっとるわ、それくらい。
数分後に自分も入るであろう部屋の扉に貼られたA4サイズの紙を見つめながら心の中でそう呟いた創世は、左隣に座る黒縁眼鏡の男に話しかける。
「三月に面接来てるってことはさぁ、切羽詰まってる系なん? 俺、実はこういうちゃんとした企業の面接って初めてでさ。なんかコツとかあったら教えて欲しいんやけど」
眼鏡の男は軽く会釈だけして創世の相手をしようとしない。硬い表情で何も無い壁をジッと見つめている。
「あぁ、はいはい。鉄仮面系ね」
創世は諦めたようにそう言って背中をパイプ椅子に戻し、頭の中で面接のシミュレーションを始めた。
――――御社の経営理念に書かれている地元を愛する企業という言葉を素晴らしいと感じ、応募を決めました。決して家から車で三十分以内の距離にあるとか邪な感情はございません。明石の漁港で捕れた魚と神戸の農家さんが育てた野菜を中心に作られた御社の手作り弁当には幼い頃からお世話になっており、私も地元を愛する人間としてお手伝いが出来たらなと思っております。決して週休二日制、最終学歴が高卒でもOKという文字に惹かれて来たわけではございません。
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