訃 報

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「あのぉ……」  脳内を志望動機でいっぱいにしていると、右隣に座る真面目そうな女が話しかけてきた。 「やっぱり、あれかなぁ。志望動機は簡潔に、アットホームな社風に惹かれましたとかにしといた方がええかなぁ」 「いや、そんなことより、その……髪の毛に白いアッシュ入れているの、ヤバイと思いますよ? この会社、清潔感を一番大事にしているみたいなこと書いていましたし。その白いスーツも指摘されると思います」 「アッシュ? あぁ、これ? これはアッシュじゃなくて地毛やで。母さんが事故で亡くなってから白髪まみれになってもてさ。何回染めてもすぐ白くなるから放置してる。あっ、このスーツは清潔感重視で選んだんやけど、今思えばホストっぽくてちょっと後悔してんねん。ごめん、俺、緊張したら喋るのが止まらなくなる人間で」  創世は息継ぎすることなく一気に喋り、ぎこちない笑みを浮かべた。女は呆れた表情で口をぽかんと開け、「そうですか」と言って視線を逸らす。  明らかに拒絶されていることを感じ取った創世は自分も鉄仮面になろうと、何事も無かったように壁を見つめた。 「山本さん、白崎さん、土肥さん、お入りください」  扉の中から三人の名前が呼ばれる。葬式の鯨幕(くじらまく)のような三人は立ち上がり、順々にノックをして部屋に入っていった。
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