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人並外れた嗅覚を持つ創世にとって、一度気になり始めた臭いは苦痛そのものだった。
「白崎さんに質問なのですが、お父様が会社を経営されているとか? どういった職業でしょう? その白スーツで出て行くあなたを見て注意しないってことは、経営しているのはホストクラブか何かですか?」
左端に座る三十代の面接官が茶化すような口調で創世に質問する。臭いが気になりすぎて自分が質問されていることに一瞬気が付かなかった創世だが、他の面接官のにやにやした顔で我に返る。
「いや、父が経営しているのはホストじゃなく、清掃会社です。特殊なヤツですけど」
臭いに意識が行き過ぎて面白味のある返しが出来ない。このままでは確実に採用されないと創世が思った瞬間、ポケットに入れていたスマートフォンが鳴り始めた。
最大音量に設定していたらしく、三人の面接官も肩をビクッとさせるほどの音だ。
――――終わった。消音モードに設定するのを忘れてた。
「普通、面接前に電源は切っておくもんです」
女の面接官が溜息混じりにそう呟く中、創世はスマートフォンを取り出して画面に表示された名前を見つめる。
――――赤堀慎吾。どうして赤堀さんが俺に。
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