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創世の父、創太と共に白創清掃社を立ち上げた赤堀が創世に電話を掛けてくることはほとんど無い。咄嗟に応答ボタンを押してしまった創世は、恐る恐るスマートフォンを耳に持っていく。
『創世か? 落ち着いて聞けよ? 社長が……創太さんが、死んだ。見積もり先から駐車場へ行く途中の歩道橋で足を滑らせたみたいで』
頭の中が髪とスーツよりも白くなっていく。創世が何も言えずに固まっていると、『とにかく一旦、帰って来てくれ』という言葉を残して一方的に通話は終了させられた。
病気一つしたことの無い父の死が現実に起こった事だと受け入れる事が出来ない。女の面接官が何か話しかけているが、犬や猫が鳴いているような感覚で創世の耳には言葉となって入って来なかった。
スマートフォンをポケットに押し込み、力なくパイプ椅子に腰を落とす。左右に立つ二人は驚いた顔で創世を見下ろしてきた。
「あなたねぇ、面接中に電話に出るなんて常識的に考えておかしいでしょう。一体どういう育てられ方を……」
女の面接官の怒声がようやく創世の耳に届いた時、「すんません。俺……この面接、辞退します」と口にしていた。
三人の面接官は顔を見合わせた後、中央に居る禿げた面接官が「えっ、今なんて」と喋り出す。その言葉が面接会場に響いた時、創世は既に背を向け、扉に向かって走り出していた。
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