第一葬 清葬

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第一葬 清葬

 白崎創太(しらさきそうた)の通夜は、明石市和坂にあるセレモニーホールで執り行われた。親戚の叔母が段取りをし、創世が喪主として祭壇の前に立っている。そのすぐ隣の椅子には創世の母である翔子(しょうこ)の遺影が飾られていた。  弔問客は創世が予想していたよりも多く、創太が数多くの人に慕われていた事が分かる。学生の頃の友人と思われるグループ、過去に創太が清掃を担当した客も多く来ているようだ。そして勿論、訃報の連絡をした赤堀をはじめとする白創清掃社従業員の姿もあった。  自宅の一階が会社の事務所であるにも関わらず、高校生になった頃からほとんど顔を出さなくなった創世には、ここ十年の間に入った社員は分からない。ただ、その全ての従業員が嗚咽している事から、創太に対する信頼が厚かったことは窺い知れる。 ――――俺が面接受けてた会社より、よっぽどアットホームやんけ。  泣き崩れる従業員の姿を遠い目で見つめながらそんなことを考えていた創世は、父の訃報が届いてから一度も涙を流していないことに気づいた。  どうして涙が出ないのか。現実を受け入れていないからだと思ったが、単純に父に対して愛情が無いだけかもしれないとも思う。  創世は幼い頃、父が大好きだった。自分もいつか父のような仕事がしたいとも思っていた。しかし、母が事故で死んだ日から、創世の父に対する気持ちは百八十度変わった。母の死に際に駆け付ける事よりも仕事を選んだ父を、創世は赦す事が出来なかった。  十三年前の記憶を辿っていると、いつの間にか焼香が始まっていた。焼香をしていく弔問客に創世は頭を下げる。
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