第一葬 清葬

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 焼香の長い列も終盤に差し掛かり、見知った顔が目の前に立った。 「創世、辛い時はいつでも言うてね」  幼馴染である黒木緋鞠(くろきひまり)が声を掛けてくる。その隣には西明石駅前で喫茶HIMARIを経営する緋鞠の父も並び、強面な顔には似合わない大粒の涙を浮かべていた。シングルファザー同士気が合ったのだろう。緋鞠の父が経営する喫茶店は創太の憩いの場でもあった。  創世と緋鞠もお互い学童に入っていたこともあり、小学生の頃から仲が良かった。男勝りな性格の緋鞠とマイペースな創世は、同い年だがまるで姉弟のような関係を築いていった。成人してからはあまり会ってはいなかったが、月に一度はラインのやり取りをする関係が続いている。 「ありがとう」と微笑みながら緋鞠を見送った創世は、白い花に囲まれた父の遺影を見上げる。会場からは啜り泣きの声が止まることなく続いていた。 ――――聴こえているか? オヤジの為に、こんなにも多くの人が泣いている。俺は別に一人でも生きていける。でも、あんたを信頼していた社員や友人、そして客の心はしばらく沈んだままや。息子の俺には、それを癒す事は出来ん。
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