足枷にもならない

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 眠らない街と呼ばれるこの繁華街は、ちょうど歓迎会シーズンの今の時期は特に賑やかだ。居酒屋を出てから解散するのかしないのかはっきりしない集団が道を占拠する。俺もその中の一人。  周りを見渡せば、大抵のやつは酔っ払っている。道端で吐き散らかす奴、それを介抱する奴、流行りの歌を熱唱して音痴を晒す奴。酒を覚え始めた大学生の、お馴染みの光景である。俺も酒には弱くないが、この浮かれた雰囲気に呑まれ、ほろ酔い気分だった。 「(さかえ)、二次会行くよな?」  幹事の佐藤から声がかかる。サークルの同期で、根っからの陽キャである彼は、早速新入生たちの心の壁を粉々に砕いたらしい。今日の新歓に参加したほぼ全員の新入生を引き連れて、カラオケに向かおうとしていた。  ふと、その中の一人の女の子と目が合う。  確か最初、席が隣だった子だ。なんとなく佐藤が好きそうなタイプの子だなと思い、なるべく彼を立てるように会話を広げた。  上手くくっつけば、佐藤が1日10回は言っている「彼女欲しい」というウザいセリフも聞かなくて済むし、あわよくば仲を取り持ったお礼に焼肉でも奢ってもらおう。そんな気持ちで話していたので、正直彼女に対する印象は薄かった。 「リコちゃん、お前に気があるっぽいぞ」  すぐに返事をしなかった俺に、佐藤がこそっと耳打ちした。  そうだ、彼女はリコちゃんって名前だったっけ。 「まぁ俺はアイリちゃん狙いだから、邪魔すんなよ」 「……ああ、わかった。行くよ」  佐藤の意図が読めた。どうやら彼は清楚系美人と恋仲になるよりも、今夜一発やれそうな子を選ぶらしい。俺も、アイリちゃんからは押せばやらせてくれそうな雰囲気を感じ取っていた。どうせここにいる男は全員、同じことを思ったんだろう。    せっかくの俺のアシストは無駄にはなったが、意外なところから転がってきたチャンスだ。今夜リコちゃんとどこまでいけるか、なんて下心でカラオケ屋に向かう。
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