5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
居酒屋の外
双葉が大学の課題が終わっていないと言い出したので、から揚げを食べたら解散することになった。
また、お金も全部双葉が払ってくれた。割り勘にすると言って財布まで出したのに、自分が誘ったからと無理やりドアの外に出されてしまったのだ。
春から夏に移り変わる時期の夜の空気は気持ちが良い。乾燥もしていないし、じめじめもしていない。緩い涼しい風が髪を撫でる。
しばらく双葉を待っていると電話がかかってきた。鞄の中からスマートフォンを出すと、画面には三波くんの名前が表示されていた。こんな時間に珍しい。
わたしは電話に出た。
「もしもし、睦月だけど。今日、バイトじゃなかったの?」
『うん、急にごめん。バイトがさっき終わってさ』
電話の向こうの三波くんのトーンは低かった。
「そう、お疲れさま」
『睦月、今から来てくれないかな』
少し重々しい感じだった。この調子は危ない予感。
でも、警戒されないように普段の感じを意識した。
「いいよ。でも、今友達と一緒だから、あとで場所はメッセージに送って」
そう言ってわたしは電話を切った。すると、すぐにポコンとメッセージが届いた。三波くんの今いる場所の地図が送られてきた。
「あれ、電話?」
スマートフォンをしまったとき、声をかけられた。双葉が店から出てきたところだった。
「うん、三波くんから」
「そっか」
双葉は余計なことを何も言わなかった。
「そんなことより、いくらだった? やっぱり払うよ」
わたしは鞄から再び財布を出す。流石に全額奢ってもらうのは申し訳ない。
「いいって、いいって。レモンサワーも勝手に頼んじゃったし」
そんなのいつものことだ。けれど、双葉はぐいぐいと腕を押し込めてきた。
次に飲むときはわたしが払おう。わたしはご馳走さまと礼をした。
「そんなことより、早く彼くんのところに行きなよ」
双葉はわたしの腕をぐっと押したまま、そう詰めてきた。
「会えないはずなのに会おうって言ってくれる人は良い人だよ」
双葉はきちんとから揚げとレモンを皿に取り分ける人なのだ。居酒屋のソファに足も上げるけど、勝手にレモンサワーを頼むけど、大学の課題も期限ぎりぎりまで放っておくけれど、こういう人だからわたしの親友なのだ。
わたしは今日会ったときの足の件をチャラにしたくなった。
最初のコメントを投稿しよう!