居酒屋の外

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居酒屋の外

 双葉(ふたば)が大学の課題が終わっていないと言い出したので、から揚げを食べたら解散することになった。  また、お金も全部双葉が払ってくれた。割り勘にすると言って財布まで出したのに、自分が誘ったからと無理やりドアの外に出されてしまったのだ。  春から夏に移り変わる時期の夜の空気は気持ちが良い。乾燥もしていないし、じめじめもしていない。緩い涼しい風が髪を撫でる。  しばらく双葉を待っていると電話がかかってきた。鞄の中からスマートフォンを出すと、画面には三波(みなみ)くんの名前が表示されていた。こんな時間に珍しい。  わたしは電話に出た。 「もしもし、睦月(むつき)だけど。今日、バイトじゃなかったの?」 『うん、急にごめん。バイトがさっき終わってさ』  電話の向こうの三波くんのトーンは低かった。 「そう、お疲れさま」 『睦月、今から来てくれないかな』  少し重々しい感じだった。この調子は危ない予感。  でも、警戒されないように普段の感じを意識した。 「いいよ。でも、今友達と一緒だから、あとで場所はメッセージに送って」  そう言ってわたしは電話を切った。すると、すぐにポコンとメッセージが届いた。三波くんの今いる場所の地図が送られてきた。 「あれ、電話?」  スマートフォンをしまったとき、声をかけられた。双葉が店から出てきたところだった。 「うん、三波くんから」 「そっか」  双葉は余計なことを何も言わなかった。 「そんなことより、いくらだった? やっぱり払うよ」  わたしは鞄から再び財布を出す。流石に全額奢ってもらうのは申し訳ない。 「いいって、いいって。レモンサワーも勝手に頼んじゃったし」  そんなのいつものことだ。けれど、双葉はぐいぐいと腕を押し込めてきた。  次に飲むときはわたしが払おう。わたしはご馳走さまと礼をした。 「そんなことより、早く彼くんのところに行きなよ」  双葉はわたしの腕をぐっと押したまま、そう詰めてきた。 「会えないはずなのに会おうって言ってくれる人は良い人だよ」  双葉はきちんとから揚げとレモンを皿に取り分ける人なのだ。居酒屋のソファに足も上げるけど、勝手にレモンサワーを頼むけど、大学の課題も期限ぎりぎりまで放っておくけれど、こういう人だからわたしの親友なのだ。  わたしは今日会ったときの足の件をチャラにしたくなった。
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