から揚げのレモン

彼の浮気

　わたしは彼氏に浮気をされている。相手はどんな人か知らないけど、最近よく理由も言わないでどこかに行ったり、ふと見えてしまったスマートフォンの画面に知らない人からハートマーク付きのメッセージが送られてきたりしている。
　しかし、わたしは鈍感な方で、この状況に気付いてもそれが浮気であることに直結しなかった。きっと彼なりの交友関係があるのだろうとしか思っていなかったのだ。
だから、それを何となく大学の友達に話したのだが、
「それ、浮気だよ！」
と、指摘された。
　最初は現実味がなかった。彼とは喧嘩もなく、恋人関係は至って良好だった。心が離れるわけがない、とまでは言わないが、他の人だったらなあなんて瞬間はなかったように思う。
　ところが、浮気という結果から見れば、不自然な隠し事やメッセージのハートマークという要素は状況証拠になる。
　友達は憤慨した。
「可哀想！」
「そんな人、とっとと別れなよ」
「浮気は裏切り行為だよ」
　みんな異口同音に「浮気は悪」と言った。
　しかし、どうだろう、とわたしは思う。浮気は絶対に悪なのだろうか。
　実際、彼の浮気を知って衝撃はあった。ちょっと寂しい気持ちにもなった。やっぱり、自分よりも他人を優先されるのはいい気分ではない。
　ところが、わたしの気持ちはみんなのように怒り狂うほどではなかった。言うなれば、洋菓子屋さんに行ったときに目当てのケーキが目の前で売り切れた、というぐらいだ。それで発狂する人はあまりいないだろう。稀にいるけれど、それは相当幼児性の高い人物である。
　むしろ、彼の恋を応援したいぐらいだ。自分の好きな人には幸せになってほしい。誰だって理解できる感情だと思う。
　それに、それが本気という場合もあり得る。だとしたら、余計に応援したい。本気だったら、プレゼントを選んだりデートプランを考えたりもするかもしれない。
「ビシッと言ってやりなよ！」
　友達はそう言い残し、わたしの許を離れた。
　完全に彼のことは悪人扱いである。
　でも、反論したところでいっそ別れてしまえ、なんていう極端な話に持っていかれそうなのでやめておく。