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「とりあえずちゃちゃっと準備しますね。主任は座ってテレビでも観ててください」  奥の部屋に案内され、勧められるままソファに腰を下ろす。香川がキッチンに戻ると、三輪は不躾にならない程度に室内を観察した。  部屋はこざっぱりと片づいていた。ソファの他には、木製の洒落たローテーブルと薄型テレビ、奥にはセミダブルらしいベッドと、必要最低限のものしかない。  観察を終えると、もう何もすることがなくなった。キッチンから聞こえる水音で、ようやく自分も何か手伝うべきではと思い至る。 「俺にも何か手伝えることはあるか?」 「ありがとうございます。でも大丈夫。食事の準備はもうできてるんで」  キッチンに戻って声をかけると、香川はカウンターの上に置かれた土鍋の蓋を開けてみせた。もわっと湯気が立ち上がり、出汁のいい香りが広がる。鍋の中身はおでんだった。 「おでん? この季節に?」 「おでんっていつ食べても美味しくないですか? 主任のために卵たくさん入れときましたよ。食べるでしょ?」  確かにおでんは美味しい。中でもはふはふしながら食べる卵は最高だ。  負けた気がしないでもないが、わざわざ自分のために卵を多めに用意したと言われれば悪い気はしない。 「……食べる。どうもありがとう」  こくりと頷いて素直に礼を告げると、香川が鍋の蓋を持ったまま固まった。無言で三輪を見下ろし、困った時のように眉を寄せる。 「おい、香川?」  三輪の呼びかけに瞬きで答え、香川は蓋を鍋に戻した。 「ああ……、すみません。すぐカセットコンロの準備しますね。鍋はいいので食器をテーブルに運んでもらってもいいですか?」 「わかった。飲みものはどうする?」 「後でお茶も淹れますけど、とりあえずビールとグラスだけ先にお願いします」  二人でせっせと支度をしていると、ほどなくしてドアのチャイムが鳴った。
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