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「――主任、俺は主任を尊敬してます。この先もずっと主任の下で働きたいっていう気持ちに嘘はありません。でも昼飯くらいもっと明るい場所で食いません?」  眉を八の字にした播磨に切々と訴えられ、三輪は内心で舌打ちをする。  確かにここは社屋の階段の踊り場だ。日も差さなければ、人気もない。だからなんだと言うのか。どこで食べてもご飯はご飯だ。味は変わらない。  だがそんな不満を口に出すわけにはいかなかった。播磨にへそを曲げられて、困るのは三輪の方だ。 「まあそう言うなよ。ほら、鰻の皮やるから」 「それ、主任が食べたくないだけでしょ」  ジト目で見つめられ、思わず返答に詰まる。  鰻が食べたいと言うから奮発して有名店の鰻重をテイクアウトしてきたのに、播磨は重箱に入ってない鰻なんて鰻じゃないなどとのたまった。食事中もチクチクと責められ続け、せっかくの鰻を味わう余裕もない。今になって香川の優秀さに改めて気づかされる。まったく惜しい処理係をなくしたものだ。 「いい加減、香川と仲直りしたらどうです? ていうか金曜日はあんなにイチャイチャしてたくせに、週が明けたら険悪ってどういうことですか」 「……別に険悪ってほどじゃないだろ」 「でも明らかに香川のこと避けてますよね」  痛いところを突かれてしまい、三輪はさりげなく視線を逸らす。  香川のことが好きなのかもしれない。  その疑惑が浮上してから、三輪は香川と昼食を取るのをやめた。元々時間が合う時だけに限定していたので、忙しいと一言言えば香川は大人しく引き下がる。もの言いたげな視線に気づいていながら、三輪はあえてそれを無視した。二人きりになって、以前と同じように振る舞える自信がなかった。 「それでその……、香川は何か言ってたか?」 「気になるなら本人に聞いてください」  すげなく言い返され、ガックリと肩を落とす。香川の様子を聞き出すために鰻まで用意したのに、買収作戦は失敗に終わったようだ。 「だいたい主任のせいで香川の周りが騒がしくなっちゃって、俺だって迷惑してるんです」 「騒がしくなったって、どういうことだ?」 「隣で睨みを利かせてた人がいなくなったもんだから、女性陣も箍が外れちゃったんでしょうね。前にも増してモテまくってますよ。俺なんかは視界にも入ってないみたいです」  奈良漬けを咀嚼しながら、どうせ俺なんてと播磨がいじける。愛する彼女がいても、女性の視線は気になるらしい。 「制作の葉山課長も香川を探してたみたいだし、どんだけ需要あるんだって感じですよ」 「葉山が?」  葉山には釘を刺しておいたはずだが、性懲りもなくまた自分の点数稼ぎのために、他部署の香川を利用するつもりなのだろうか。そう思うと、居ても立っても居られなくなった。  三輪は食べかけの鰻重を播磨に手渡し、無言で立ち上がる。女性たちのことは仕方がないと看過できても、葉山は無理だ。 「主任?」 「悪いけどそれも食べておいてくれ。もったいないから残すなよ」 「へ? そりゃ残さずいただきますけど……」  呆気にとられている播磨を残し、階段を使って制作部のある六階に向かう。食事に出ているかもしれないと思ったが、同じ階の喫煙室に葉山の姿を見つけた。
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