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 挨拶もなくドアを開けると、驚いたように葉山が目を見開く。幸い室内は葉山一人だ。 「よう。珍しいとこで会うな、三輪」 「俺の部下をそっちの都合に巻き込むなと言ったはずだ」  挨拶もなく切り出すと、葉山は訝しげに顔を顰めた。 「はあ? 一体なんの話だよ?」 「とぼけるな。また香川を便利に使う気なんだろう」  葉山が吸いさしの煙草を灰皿に近づけ、思案顔でトントンと灰を落とす。ようやく思い当たったのか、硬い表情を解いた。 「違う違う、接待じゃない。コンパだよ。合コン。イケメンを連れてこいって女の子たちがあんまりうるさいから、香川に都合つけてもらおうと思ったんだ」 「合コン……?」  三十二にもなってコンパもどうかと思うが、若い女性に顎で使われていることに対して、葉山は何も思わないのだろうか。あるいはコンパでもないとやってられないくらい、ストレスが溜まっているのかもしれない。いずれにしろ、三輪には理解できない感覚だ。 「香川はそういう場所には行かないと思うぞ」  以前香川は、女性と必要以上に親しくなる気はないと言っていた。あの男が出会いの場所に進んで行くとは思えない。 「義理堅い男だしお願いすればきてくれるだろ。あいつ今オフィスにいるのか? 食堂?」  このまま香川の元に向かいかねない男の腕を、咄嗟に掴んで制止する。 (香川は葉山の誘いを断れないかもしれない)  何をやらせても優秀な男だから、そつなく場を盛り上げるに違いない。三輪にしてくれたように女の子に食事を取り分けてやり、目を見て笑い合ったりするのだろうか。 (嫌だ)  笑えるくらいシンプルな感情が胸を満たす。  香川が誰かと親しげにしているところなど、想像もしたくなかった。 「――それは、いつなんだ?」 「いつって、合コン? 今週の金曜だけど?」 「俺が行く」 「へ?」  煙草の残数を数えていた葉山が、弾かれたように顔を上げる。三輪自身、自分の言葉に驚いていた。だけど撤回する気はない。 「その合コンには俺が行く。だから香川は誘うな」
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