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 三輪はぬめっとしたものが嫌いだが、同じくらい他人の愚痴を聞くことも嫌いだ。  中でも同年代の男が零す愚痴はいただけない。下手に役職にでも就いていようものなら、愚痴に優越感ややっかみが混じって、どうしても粘着質になりがちだ。 「いくらなんでも接待多すぎだって。今週だけでもう三回だぞ? 新人がいないせいで毎回俺らが引っ張り出されて、ほんといい迷惑だよ。お前んとこは下が豊富にいていいよな」 「制作は体力も根性も要るし、誰でもいいってわけにはいかないからな。上も新人には厳しいと考えてるんだろ」 「ああ、そんな風に無理やり持ち上げなくてもいいよ。代理店の花形は営業だってわかってるし」  わざとらしく溜め息をつき、正面に座る男が音を立ててラーメンを啜る。  同期入社の葉山は、制作部で課長を任されている。よほどストレスが溜まっているのか、さっきからもうずっとこの調子だ。 (こんなことなら多少時間を無駄にしても外に食べに出ればよかった……)  社食は嫌いじゃない。近くて便利、安価のわりに味もいい。本当なら毎日でも利用したいくらいなのだが、定食にはたいてい何かぬめっとしたものがついてくる。食事をしていると誰かしら声をかけてくるのも面倒だ。  だが今日は時間を惜しむあまり、つい食堂を利用してしまった。隅で気配を消していたのに、葉山は三輪を目敏く見つけ出し、前の席を陣取って延々と愚痴を垂れ流している。おかげでさっきからまるで皿が空かない。「本日の定食」にトマトサラダがついていたのも箸が進まない理由の一つだった。 「めずらしー、食堂に三輪主任がいる!」  名前を呼ばれて顔を上げれば、包みを提げた播磨がこちらに向かって手を振っていた。後ろにはトレイを手にした香川もいる。香川は三輪と目が合うと、微かに笑って会釈した。
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