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 苦手な食べものをいちいち羅列するのも面倒なので、香川には最初のうちにぬめっとしたもの全般が苦手だと申告した。香川は特に深追いもせず了解ですと頷き、時間が合う日に限って一緒に昼食を取るようになった。  結論から言うと、苦手食材処理係としても、香川はすこぶる優秀だった。  めかぶも納豆もなめこ汁も、なんでも笑顔で引き受けてくれる。そしてお返しという名目で必ず自分の皿からとっておきの一品を分けてくれるのだ。そんな香川の言動を、食堂内の女性社員たちが絶えず注視していた。 「香川と二人っていうのは、やっぱりちょっと面倒だな……」 「どうしてですか? これでも任務をまっとうしてるつもりなんですけど」  そう言って、三輪が押しつけたオクラの天ぷらを前歯で齧る。サクッといい音がして、ヌルヌル食材のくせにやけに美味しそうだ。  今日の三輪は天ぷら定食、香川は醤油ラーメンを昼食に選んだ。向かいの席では、透き通った飴色のスープがホカホカと湯気を立てている。葉山の時は麺を啜る姿にげんなりしたのに、箸とレンゲを使って麺を啜る香川を見ていると、自分もラーメンが食べたくなってくるから不思議だ。 「助かってるのは確かだけど、香川といると目立って仕方がないんだよ。女性陣の視線が痛い。こうしてる今も席替われって責め立てられてるみたいな気がしてくる」 「それが事実ならありがたい話なんでしょうけど、俺は女の人と必要以上に親しくなるつもりはないので」  いやにきっぱりとした口調に、箸を止めて男の顔を見やる。三輪の視線に気づき、香川は口の両端を不自然に引き上げた。
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