肝試しの館に棲む彼は靴職人

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「お金なら払います!」  割増料金や、なんだったら納期違約金なども出すつもりだ。 「金を得る代わりに、顧客の信用を失えと?」 「っ、! ……おっしゃる通りです」  予約客がいるのに、飛び込み割り込ませるのが客がどれだけハイリスクか。自分の仕事であればわかっていることなのに、人にやらせようとしてしまった。 「それにアンタには無理」 「は?」 「俺の顧客を知ってる?」 「え」  靴を作る手を止めないまま男があげた名前は世界中のセレブばかり。  中には中近東の王族やヨーロッパの貴族の流れを汲む人物もいるらしい。 「看板は伊達じゃないんだ」  晴恵はごくりと喉を鳴らした。 「まさか貴方が……檜山さん?」 「そうだ。童顔で悪かったな、これでも二十七だ」  声や佇まいからして、三十歳になっているかいないかとは思った。  しかし『俺の』というからには、このもじゃもじゃくるくるパーマ男こそが『彼』なのだろう。  折も折、電話が入る。
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