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智恭に答えてもらったルネはぱあっと顔を輝かせた。
「晴恵、心配ない。トモの靴のまだ五足分だよ」
あと十足分は余裕だという。
晴恵は恐ろしくなり、逃げだしかけた。
実際、腰を浮かせて入り口のドアを窺い見たところを智恭に捕獲された。
「逃がさない」
優しい言葉なのに、なぜか恐ろしい。
「『俺を惚れさせた責任はとってもらう』って言ったろ」
言ったが!
「そ、それとこれとは……!」
「違わない。……晴恵は俺を一人にするのか?」
熱い息を耳に吹き込まれて体がぞくりと震えた。
「さ、寂しそうな声音を使うなんて、卑怯!」
抗議しても真っ赤な顔をしていれば意味はない。
「アンタを捕まえておけるなら、なんでも使うさ」
何かにサインした智恭は晴恵の腰を抱いたまま立ち上がった。
智恭はなにごとかを挨拶をすると、ジタバタする晴恵をかかえたまま、デザイナーの前を辞した。
彼の工房がある商店街に帰ってきたとき、晴恵はほうっと息を吐き出した。
「疲れたか」
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