晴れの日、靴職人は跪く

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「もしもーし、檜山さん?」 「智恭だ。……実は俺に恋人ができるのを手ぐすねひいて待ってる奴らがいて」 『何かあった時に力になる。いや、ならせてくれ』  と言ってきかないクライアントがルネ以外にも沢山いるらしい。  ……自分は靴職人ではなく、わらしべ長者と付き合っているのだろうか。  これが『断っても断りきれない付け届け』の類なのかもしれない。  どこかで『もらうことは徳の一種である』と聞いた気もする。  智恭もなんだかんだあった末、『評価を怖じない』ことにしたのだろう。  智恭の家には今日買った服の山が届いていた。荷解きして、彼の寝室のクローゼットに収める。  ……名高い靴職人の衣服はスーツが七着、ワイシャツが七枚のみだった。そのかわり、全てが手縫いである。 「十年以上前に作ってもらったが、まだしっかりしている」  丁寧な縫製もあるのだろうが。  型崩れしないハンガーや服の埃を払うブラシがかけられており、智恭がきちんと手入れをしていることも大きいのだろう。 「職人は職人を知る、だね」 「ああ。どれだけ手間暇と愛情をかけてるか身をもって知ってるからな。粗末にはできない」
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