21人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしもーし、檜山さん?」
「智恭だ。……実は俺に恋人ができるのを手ぐすねひいて待ってる奴らがいて」
『何かあった時に力になる。いや、ならせてくれ』
と言ってきかないクライアントがルネ以外にも沢山いるらしい。
……自分は靴職人ではなく、わらしべ長者と付き合っているのだろうか。
これが『断っても断りきれない付け届け』の類なのかもしれない。
どこかで『もらうことは徳の一種である』と聞いた気もする。
智恭もなんだかんだあった末、『評価を怖じない』ことにしたのだろう。
智恭の家には今日買った服の山が届いていた。荷解きして、彼の寝室のクローゼットに収める。
……名高い靴職人の衣服はスーツが七着、ワイシャツが七枚のみだった。そのかわり、全てが手縫いである。
「十年以上前に作ってもらったが、まだしっかりしている」
丁寧な縫製もあるのだろうが。
型崩れしないハンガーや服の埃を払うブラシがかけられており、智恭がきちんと手入れをしていることも大きいのだろう。
「職人は職人を知る、だね」
「ああ。どれだけ手間暇と愛情をかけてるか身をもって知ってるからな。粗末にはできない」
最初のコメントを投稿しよう!