晴れの日、靴職人は跪く

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 ほら、と促され恐る恐る目を開ける。  すると、鏡の中に晴天のように清々しい女性がいた。  重たげな一重は涼やかに。唇は夢見るようにふんわりと微笑んでいる。  夜会巻きにされた髪には、靴やドレスと同じモチーフの貝殻と真珠のバレッタが付けられている。 「ハルエのナマエ、ハレタソラのイロとキキマシタ」  スタッフがたどたどしくも日本語で教えてくれた。晴恵は靴やドレスをじっと見た。 「……だから、この色なんだ……」  智恭はわかってくれているのだ。両親が晴恵の名につけた想いを。   「晴恵。泣くな、せっかくのメイクが流れるぞ」  声とともに涙ぐんだ晴恵の顔にかぶさってきたものが、彼女の涙を吸い取ってくれた。 「っ」  正直、見惚れた。  髪を綺麗に撫でつけ、髭を剃った智恭はどこかの貴公子のようだ。  シルバーグレイのスーツに、濃いグレーのドレスシャツ。タイやリボンはせず、晴恵と同じ色のパールの襟飾りをしている。胸に挿したポケットチーフは晴恵のドレスと共布。 「ほんと、トモがこんなに独占欲が強いと思わなかったよ」  ルネがしみじみ言う。 「大事なものには名前をつけておく主義でね」
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