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ローズは貴族社会でこれからずっと生きていくか、市井に下るか、大きな岐路に立たされていた。子爵家という家柄もある。が、もともとハウエル領は平民とハウエル家の距離が近かった。100年前なら身分差格差も大きかったが、いまは一部の上級貴族を除き、隔たりは埋まってきていた。
ハウエル領は王都の隣にあり、市井に下ったとしても王都で生きていける環境だ。問題は、どうやって生きていくかという手段だ。
ローズはライターの仕事をしているとはいえ、こっちも末端ライター。新聞に載せてもらってはいるが、人気は鳴かず飛ばずだ。
身の振り方の一つとして、修道院で暮らしてもいいとは思うんだけど……。自由に本を読んだり、考え事をするのができなさそうなので、なるべくその手段はとりたくない。
そんなときにゲオルグとの話が持ち上がった。断ることはできなさそうだ。
人生が決まった。時間切れだ。
三回目のデートの今日。ゲオルグ様からおそらく婚約の話が出るだろう。
ローズはゲオルグの手を取り、オペラハウスの階段を上る。白亜の建物を赤々とした松明がロマンチックに照らしていた。
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